角田光代から吉田修一まで!「猫好き」作家(現代編)


◆漱石にはじまる近代文学における「猫作品」

日本の近代芸術に新風を吹き込んだのは猫である。とくに文学の世界では、それまでは怪奇ものにしか登場しなかった猫が、夏目漱石の『吾輩は猫である』を皮切りに、小説や随筆の主役になっていった。

作家内田百閒は、夏目漱石の弟子で、彼をモデルにした映画に、黒澤明監督の「まあだだよ」がある。劇中には、百閒の愛猫「ノラ」が登場する。この猫のことをつづった随筆集が『ノラや』だ。

『猫と庄造と二人のおんな』(谷崎潤一郎/著)
一匹の猫を中心に、猫を溺愛している愚昧な男、猫に嫉妬し、追い出そうとする女、男への未練から猫を引取って男の心をつなぎとめようとする女の、三者三様の痴態を描く。

◆漱石は犬派ながら、実際に猫好きな文豪も多かった

詩人で小説家の室生犀星も猫好きで有名

火鉢にあたる室生犀星と愛猫

「吾輩は猫である」で有名な夏目漱石。さぞかし猫好きだったのかと思いきや、実は犬派だったようです。作家仲間の野村胡堂の随筆集「胡堂百話」には漱石が「犬の方が好きだ」と語っていたとの記述も。

男と女の関係を耽美的に書かせたら、右に出るものはいない谷崎潤一郎。彼は「ボードレールの影響から猫が好きになった」と自ら語っています。

「鞍馬天狗」シリーズなど、時代小説の名手として知られる大佛次郎。彼は猫を「生涯の伴侶」と言い、「来世は猫に生まれたい」と願うほど、大の猫好きでした。

◆現代作家の中にも猫好きを公言する人は少なくない

▼角田光代

「角田光代」

1967年神奈川県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。2005年『対岸の彼女』で直木賞。2006年「ロック母」で川端康成文学賞。2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞
http://www.shinchosha.co.jp/writer/1137

一途に恋する女の子の心理、恋人同士のリアルな会話、家族たちの微妙な関係性…。そしてのびやかに綴るエッセイの数々。とにかく、何を書かせてもうまい!というのが角田さん。

松本清張賞、山本周五郎賞、すばる文学賞、小説現代長編新人賞などの選考委員を務める。

最近では愛猫トトとの日常を綴ったエッセイも出版されている猫好きの一面も。

直木賞作家の角田光代さんと暮らすのは、アメリカンショートヘアのトト。7歳のメス猫だ。猫と暮らす前と後では、すっかり世界が変わってしまったという角田さん。

「夫も私も本来は仕事人間。トトがいなかったら、ふたりとも日常生活をおろそかにしていただろうと思います。」いつの間にか、トトを軸に今の暮らしが成り立っている。

角田のコメント

▼吉田修

「吉田修一」

1968年長崎市生まれ。 97年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞し作家デビュー。20 02年『パレード』で第15回山本周五郎賞、同年『パーク・ライフ』で第127回 芥川賞を受賞。07年『悪人』で第61回毎日出版文化賞と第34回大佛 次郎賞を、10年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞を受賞。
http://bookshorts.jp/yoshidashuichi

第156回芥川賞から、新しく選考委員として加わった吉田修一氏。作家生活20年となる。

2016年

見た目も性格も正反対の凸凹コンビは、吉田さんにとって昼寝仲間。仕事場兼自宅では、二匹は片時も吉田さんのそばを離れない。猫を飼うのは初めてという吉田さん、彼らとの生活でそれまで知らなかった思いが生まれたという。

「おそらく金ちゃんは自分のことを勤勉な勤め人だと思い込んでおり、毎朝どこかに出勤しているつもりでいる。だからこそ、決まった時間に飼い主を起こし、朝食の準備をさせて、それを食べ、身支度する。」

吉田修一『最後に手にしたいもの』収録「好きだ! 」より

▼村山由佳

「村山由佳」

1964年東京都生まれ、軽井沢在住。立教大学卒業。1993年『天使の卵―エンジェルス・エッグ―』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。2009年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞を受賞。
http://www.homesha.jp/p/nekoiki/06_20170908.html

デビュー作『天使の卵――エンジェルス・エッグ』をはじめ、専業主婦の兼業で書き始めた『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズなどで「切ない恋愛小説の旗手」として地歩を固めた村山さん。